第3章 来歴

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第3章 来歴

昔から優等生だった。 勉強は嫌いだったが、そう言っていられる状況ではなかったから、「優等生」になることに決めた。 運動神経が悪く、複雑怪奇な友達付き合いも苦手だった。突出した容姿や能力もなく、何事につけ要領の悪かった私は、よくクラスメイトの失笑を買っていた。当時いじめられなかったのは、たまたま標的が他に居たからだろう。 小学校高学年になるクラス替えで、仲の良かった友達のすべてと他のクラスになった。ほとんど口をきいたことの無い同級生たちを前に、身に迫った危険をすぐに察知した。これからの1年、無事に過ごすためには「優等生」で通すしかないと思った。幸い、高学年からは中学受験組の派閥もある。みんなそれぞれの「キャラ」を演じているだけだ。私だけできないことはないと思って決めた。 それ以降、一流大学に入り、大企業や官僚を目指すエリートを演じて、就活の時期まで来てしまった。相変わらず勉強が得意にも好きにもならなかったけど、自分の本心を掘り下げないで周囲に合わせることは得意になった。将来について心にもない理想を語り、意気揚々とキャリアプランを語る自分に違和感はあったが、学んだことを生かして社会に貢献したいという気持ちに嘘はなかった。会社説明会の雰囲気にあてられ、面接のシュミレーションを繰り返すうちに、本気で自分はそう思っていると疑わなくなっていたのだ。
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