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第1章 仕事
ビルのエントランスを抜け、8階に上りいつものようにIDカードをかざす。早く来るつもりが雪に足を取られ、予定より10分ほど遅れていた。
朝礼とミーティングを終え、席に戻る際に上司に呼び止められた。
「今日の仕事に目途がついたら、一度前の部署に行ってきてくれ。A課長との面談がまだだろう。」
直属の上司との年度末個人面談があることを忘れていて、一瞬虚を突かれた。上司と部下のコミュニケーション促進、人事評価基準の説明を目的としてつくられた制度だが、どこにいても決まった時期に呼び出されるのはとても効率が悪いと感じている。こんな突然で、そもそも目途が立つなど無理だ。研修に来て以来、余裕があった日など一度もない。しかし義務である。新幹線の最終便を手配し、今日の分を猛然と仕上げることにした。
すっかり暗くなった外を見て霞む目を抑え、時計を確認し手を止める。これ以上は電車に間に合わなくなってしまう。まだ数人残っているが、自分の周りにはもう居ない。全体におざなりにお辞儀をし、足早に会社を後にした。
久しぶりの自分の部屋に帰り、冷蔵庫に何も入っていないことに気づいたが、何をする気力もなかった。痛む頭と目を無視し、空腹をこらえながら布団で身を縮こまらせ眠りについた。
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