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第4章 嘘
15年近く、自分が演じていた化けの皮が剥がれたのを感じた。私は、その場しのぎの嘘をずっと続けていただけだった。
本当は、事業が撤退してとてもショックだった。
本当は、第一志望の会社じゃなかった。
本当は、違う大学がよかった。
本当は、優等生なんかなりたくなかった。
一気に身のうちにあふれ出す激情も、表には一切でてこないのが可笑しかった。上司は、私がこんなことを考えているなど全く知らないだろう。だって、ここでも私は「優等生」なのだから。
転勤で今の部署に来てから、知らない土地で死に物狂いで働いた。休日も仕事関連の資格の勉強、呼び出しに追われ、きつい仕事も笑顔で引き受けた。先輩や上司が褒めてくれるのが嬉しかった。
仕事量に反比例して交友関係は悪くなった。もともと人付き合いは不得意で、不規則な勤務から休みが合わず、恋人にも振られたし、友人とは疎遠になった。仕事を拠り所にしなければ、私にはなにもなかった。私情を入れ込み過ぎたから、キャリアも思い通りにすすむと勘違いしたのだろう。もうどうでもいいと思った。
面談を粛々と終えて笑顔で上司に礼を述べ、そのまま支社に戻ろうと駅へ向かった。こんなときでも外面ばかり繕う自分に吐き気がする。知己の居ない土地で、数少ない友人や大切な人をないがしろにしてまで私がしたかったこととは、一体何だったんだろう。
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