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第7章 恐怖
物陰にしゃがみ込み、タクシーを呼んだ。手に汗がにじみ、動悸が激しくなってはじめて、後悔した。簡単に死ねるわけではない。恐怖に呑み込まれながら苦しんで死ぬなどごめんだと思った。
目が覚めると、ホテルのベッドの上だった。
時間は午前11時をまわっており、ああ遅刻だな、と思った。昨夜の記憶は朧気で、ひどくのどが渇いていた。頭はちっとも混乱しておらず、相変わらず靄はかかっているけれど冷静に会社に電話し、休みの申請をした。昨日呼び止め心配をしてくれた先輩から報告があったらしく、ほとんど怒られることはなかった。電話を切り、ベッドに勢いをつけてダイブした。惰眠をむさぼる自体ひさしぶりで愉快だった。
その後、詫びて会社に戻ったが、周囲の配慮もあり仕事量の調節によって環境は改善した。でも、どうしても以前のような情熱は仕事に向かなかった。そのまま研修期間を終え、順当に元の部署へ復帰した。
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