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 花田中学校一年生は、ほぼ全員、花田小学校六年生からのもちあがり。  数人が、私立の中学に入学して、抜けたくらい。  場所だって、小学校と中学校は、歩いて五分もはなれてない。小学校は大通りから数分入った住宅街の中にあって、中学校は大通りぞいにある。  だから、おなじみのメンバーで。窓の外からは、なだらかな浅山(あさやま)の山並みを見わたせて。  でも、先生ははじめましての、蔦屋万里子(つたやまりこ)先生。  中学の校舎は、小学校よりも少し壁が白くて、二棟ある。  廊下を歩く先輩たちはみんな、つんとすまして、鼻が高そう。 「くしゅ」  教室の後ろから、別のくしゃみがきこえた。  なにげなくそっちに目をやって、あたしはすぐに目をそらした。  一瞬、琥珀色の瞳と目が合った気がする。  う~……しっぱいした。  だいぶ昔に思える、小六の冬。  あたしは、恋を知った。  それが相手と、おんなじ気持ちだったもんだから、なんだかとっても舞いあがっちゃって。  一生、この気持ちがつづくような気がしていた。  だけど、思い返してみれば、つきあっていたのは、たったの二ヶ月半。  みんな、よく「これは運命の恋」とかって、はしゃぐけどさ。  けっきょく……「運命」って、なんなんだろう……。 「そろそろ、名簿順の席も飽きてきたと思うから、席がえしましょうか?」  一時間目のホームルームの時間に、蔦屋先生が言った。 「公平にくじ引きにします。わたしが黒板にあみだを書くから、それぞれ、自分の名前を書きに来てください」  先生に言われて、生徒たちが、ズラズラ黒板の前に集合する。  花田市は田舎町で、人口が少ない。だから、あたしたちは小学校のころから、一学年につき、一クラスずつ。中学になってもかわらないんだから、もう、だれがだれのとなりになったって、めずらしくもなんともないんだけど。  みんな、あたしとおんなじで、ノリ気なし。
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