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 ヨウちゃんは、サッと視線を横にそらした。 「オレ、誠の後ろに行きます」  イスを引いて、ヨウちゃんが立ちあがる。  ……え? 「誠、席かわれ」 「りょうか~い。先生、いいですよね~?」 「中条(なかじょう)君がいいなら、いいわ。ほかに、黒板が見えにくい人はいますか?」 「あ、あたしもっ!」  とっさに立ちあがっちゃって、しっぱいした。 「和泉さんも見えにくい? じゃあ、もっと前に来る?」って、先生。 「綾、うちの頭、ジャマ? うちと席、交換しようか?」って、真央ちゃん。 「あ。ち、ちがう! ちがうの! まちがえたっ!! 」 「『まちがえた』ってなんだよ~っ!! 」  クラス中がゲラゲラ笑いだした。  あたし、アホっ子だから、これ、わりといつものこと。みんなから、こうやって笑われたり、話のネタにされるのも慣れちゃった。 「わかった! アレじゃねぇ?『元カレが後ろ行ったから、わたしも行くわ~』って」  大きな体をゆらして大岩が言った瞬間、クラスの笑いがかき消えた。  あたしの心臓もこおりつく。  ……笑えない……。  だれも。  となりの席からリンちゃんが、ポカっと大岩の頭をなぐった。 「って~な~。倉橋(くらはし)っ! なにすんだよっ 」 「先生、早く授業はじめましょう」  うわ……。リンちゃんにまで、気をつかわせちゃった……。  リンちゃんはオシャレでツインテールがかわいくて、頭もよくて。あたしがヨウちゃんを好きになる前から、ヨウちゃんのことが好きだった。  だからリンちゃんは、あたしとヨウちゃんがつきあうのをすごくイヤがってた。  なのに、別れたことがクラス中にバレたあと、リンちゃんは、あたしたちに口出ししてこなかった。  リンちゃんだけじゃない。ほかの子たちもみんな、見て見ないふりをしてくれる。  それはたぶん、相手がクラスのボス的存在のヨウちゃんだから。  あたしたちの話題は、このクラスではNG。  まるで、教室にぽっかり空いたブラックホールみたいに。
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