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ふわりと、あたたかい風が、肩までのあたしの髪を舞わせた。
「くしゅん」
あたしはくしゃみをした。
「和泉ぃ~」
昇降口から出てきた誠が、こっちに走ってくる。
ついちょっと前まで、ランドセルをカタカタゆらしていた誠が、今は紺色のブレザーで、肩にスクールバッグをかけている。
「なに、誠?」
紺色のブリーツスカートをひらめかせて、あたしは誠に歩み寄った。
「和泉、だいじょうぶ?」
あたしを見つめる、誠の目のふちが赤い。
「だって……和泉もうわさ、きいたんだろ?」
「うわさ……?」
「だから……葉児が……」
「……ああ。うん……きいた」
あたしは「えへへ」って笑った。
「つきあうことになったんでしょ? えっと……なんとか先輩と」
「卯月文先輩だって。休み時間に廊下に呼び出されたときに、告白されて。オッケーしたって。和泉……だいじょうぶ? あ、友だちは? 永井と河瀬」
「有香ちゃんと真央ちゃんは、放課後、部活見学に行くって言ってたよ。料理部のぞくって」
「和泉は……?」
「あたしは……まだ入る部活決めてないし。きょうはもう帰るんだ」
あたし、ちゃんと口元を持ちあげて笑ってるのに、なんでか、誠の目はうるんでる。
「……きょうぐらい友だちといてよ。こういうときは、とにかく、ひとりにならないほうが、いいんだよ……」
誠って、やさしい……。
あたしがヨウちゃんのことで落ち込んだとき、誠はいつも、あたしのそばにいてくれる。
でも、甘えてばっかりじゃダメだよね。
小六のクリスマス以来、誠は自分の気持ちを言わない。だからもう、誠の気持ちは、あたしとは、ちがうところにあるのかもしれない。
それでも、もしも、誠の気持ちがクリスマスのときのままだったら。
あたし、誠にムダな期待をさせることになる……。
「なんで? あたしはぜんぜん平気だよ?」
頭のてっぺんでアホ毛をゆらして、あたしは「あはは」って笑った。
「それより、きょうはね、見たいドラマの再放送があるんだ。早く家に帰って、見なきゃっ!」
誠に手をふって、あたしは走り出した。
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