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《きょうから、日記をつけようと思う。
ヨウちゃんはいつも、自分のことを隠すから。
なにかあっても、平気なふりをするから。
ヨウちゃんのささいな変化も逃がさないように。
あたしは、自分の羽と交換に、ヨウちゃんと別れたんだから。
この羽をつかわなきゃならないときは、いつでも、すばやく動き出せるように。》
あたしは、つくえの上で、分厚い日記帳のページをめくった。
小六の冬、おこづかいで買った桜色の日記帳。ちゃんと分厚い表紙がついていて、辞書みたいにしっかりしてる。
《日記をつけなきゃいけないのに、あたしはヨウちゃんを、正面からちゃんと観察できない。
だって、ぜったい目が合っちゃう。
だから、こっそり、後ろから見ようって決めた。
そしたら、ヨウちゃんの背中は、なかなか見られないってことに気がついた。
あたしのほうが、背が低くて、ヨウちゃんのが、背が高いから。
教室でもあたしのつくえの方が前だし。
体育の体操は背の順。
朝礼でならぶのも背の順。
卒業式の練習で合唱するときだって、あたしが前の列で、ヨウちゃんは後ろの列。
ヨウちゃんに背中を向けているのは、いつもあたし。》
外は星空。
二階のあたしの部屋の窓で、レースのカーテンがゆれている。
パジャマに着がえて。部屋の電気を消して。勉強づくえのスタンドライトだけをつけて。
勉強づくえの前で、また日記帳のページをめくった。
《きょうは卒業式。六年生の贈る言葉は、ヨウちゃんが一番長かった。長いのにセリフをしっかり覚えていて、ハキハキ言えてた。
青森さんと窪は、私立中学に行くから、「これで最後だね」って、ヨウちゃんといろいろ話してた。ヨウちゃんは笑ってきいてて、「がんばれよ」って声をかけてた。
青森さんがそのあとに、あたしのところに来て「和泉さんもまだ、あきらめないで」だって。その言葉、うれしいのか、かなしいのか、ちょっとわからなかった。》
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