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《春休みだから、ヨウちゃんに会えない。
ヨウちゃんの家の庭のハーブたちは、またのびはじめたかな?
ヨウちゃんはまた、ガーデニングヨウちゃんになるのかな?
ヨウちゃんのお母さんのハーブティー飲みたい。
ヨウちゃんのお父さんの書斎に行きたい。》
《入学式。ひさしぶりにヨウちゃんのお母さんを見た。うすピンク色のスーツを着て、ヨウちゃんのとなりで笑ってた。
ヨウちゃんもたまに、お母さんに話しかけてた。
あたしは、お母さんに声をかけられないように、息をひそめて、後ろのほうに隠れた。
制服姿のヨウちゃん、カッコイイ。》
シャープペンで書いた丸っこい字の上に、ポトンとしずくが落ちた。
ポトン、ポトンと、しずくがページをぬらしていく。
あたしはしゃくりあげて、目にあふれる涙をぬぐった。
「……真央ちゃんのバカ……。やっぱり、そんなことなかったじゃん……」
ヨウちゃんがいつまでもあたしを見てるなんてこと、なかった。
ずっと見ていたのは、あたしのほう。
ずっと好きなのは、あたしだけ。
「わ……わかってるもん……。いつかはこうなること、ちゃんとわかってたもん~……」
だって、ヨウちゃんは昔っから、モテモテだった。
中学に入って、カノジョができないわけない。
「それでも……そうなっても、しょうがないって決めたのは、あたしなんだから……」
「別れるのはイヤだ」って「そばにいて」って、言ってくれたヨウちゃん。つきはなしたのは、あたし。
いっしょにいることより、ヨウちゃんとはなれて、陰からヨウちゃんを見守るほうを選んだ。
「……ヨウちゃん……」
あたしは日記帳を閉じて、顔をふせた。
ほっぺたにあたる日記帳の表紙が、ひんやり冷たい。
あたしのナイショ。
あたしとヨウちゃんのナイショ――。
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