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ヨウちゃんの亡くなったお父さんは、フェアリー・ドクターだった。
フェアリー・ドクターは妖精のお医者さん。その魔力がこもった薬は、妖精の傷を治したり、妖精から受けた人間の傷を治したりすることができる。
ヨウちゃんとあたしは、自分たちもフェアリー・ドクターになる洗礼を受けた。
あたしは、勉強づくえのライトを消して、ベッドに寝っ転がった。
空いた窓で、レースのカーテンがゆれている。そのすき間で、銀色の星がチカチカとまたたいている。
「あたしの羽のりんぷんみたい……」
つぶやいたら、涙がこみあげてきて、あたしは腕を目にのせて、目を閉じた。
あたしの背中には羽がある……。
きっと、まだ……ある……。
幼稚園児のころ、あたしは、ヨウちゃんのお父さんからもらった妖精のタマゴを、アメとまちがえて飲み込んじゃった。
八年たって、タマゴはあたしのお腹の中で孵化した。
以降、あたしは人間なのに、出そうと思ったら羽を出せる、妖精でもある体になっちゃった。
妖精の羽のりんぷんは、万能薬。妖精から受けたすべての傷を治すし、フェアリー・ドクターの薬を無効にできる。
そのかわりに、りんぷんをつかいきると、あたしは消滅する――。
あたしの体は、黒い妖精の鬼婆にねらわれた。ハグはあたしの体をのっとって、りんぷんを自分のつごうでつかおうとした。
あたしたちは、ハグを鏡に閉じ込めて、鏡を割って、土にうめた。
これでもう、ハグがこの世に出てこれなくなったのか、そうじゃないのか、わからない。
だけど、ヨウちゃんは警戒している。
あたしに「羽を切れ」って言った。
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