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羽を切れば、妖精のあたしは消滅するけど、人間のあたしは無傷でいられる。
ハグにねらわれることもなくなる。
だけど、あたしは「ヤダ」って言った。
羽を切りたくない。
「そのかわりにヨウちゃんからはなれる」って約束した。
ハグには、あたしが羽を切ったって信じ込ませてる。あたしは、羽がないふりをして生きる。ヨウちゃんとは無関係になって生きる。
「そうすれば、ハグがあたしをねらうこともなくなるでしょ?」って。
言わないよ……。
「自分のりんぷんをつかいたいから、羽を切らない」とは、言わない。
そんなこと言ったら、ヨウちゃんは心配しまくるに決まってる。
だからこれは。あたしの心の、深い深いところにある、ナイショ……。
ヨウちゃんになにかあったとき、あたしは、羽のりんぷんをつかって、ヨウちゃんを守る。
『……綾……』
目を閉じた胸の底に、低い声がひびいた。
『……綾……綾……きこえる……?』
これ……夢?
ほっぺたをなでているのは、部屋で風にゆれる、レースのカーテンのすそ?
だけど、夢でもいい。
夢でもいいから、ヨウちゃんの声をもっときいていたい。
『綾……。ハグはいまだ音沙汰ない。
正直言って、このまま、もう出てこないんじゃないかって、期待してるオレもいる。
綾とまた、いっしょになってもだいじょうぶなんじゃないかって……』
すごい……。
本物のヨウちゃんの声みたい。
目をつぶったまま、あたしは頭の中で真っ暗闇を見まわした。
ヨウちゃん?
ヨウちゃん、どこかにいるの?
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