6/7

46人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
『けど……ハグのことは、きっと時間が解決してくれることじゃないんだ。 なのに、綾の時間はどんどん前に進んでいく。 オレは……このままズルズルと、おまえをここに、引きとめておくわけにはいかない』  なに言ってるのっ!?  ヨウちゃんっ!  姿、見せてよっ!!  真っ暗闇でお腹の底からさけんでみる。  だけど、なんでだろう。  ヨウちゃんの声はすぐ耳元からきこえてくるのに。  やさしくささやいてくれるのに。  あちこちに手をのばしても、さわれるものはどこにもない。 『綾……。 これからオレは、おまえにとって鬼になる。 ……だから、おまえも……もうこれ以上はないって、オレにあきらめがつけるくらい、こっぴどく、オレのことをふってほしい』  ……なにそれ……。  胸がぎゅ~と痛んで、あたしはうつむいた。  あたしがそんなふうに、ヨウちゃんのことをふれるわけないじゃん……。  だって……だって……あたしだって、まだ……。  ほっぺたに流れた涙を、だれかの指先が受けとめた。  ほっぺたをうすくなでて、あたしの涙をぬぐってくれる。 「……っ」  あたしのまぶたに、ぽつぽつとしずくが落ちてきた。  あたしの涙……?  ちがう人の涙……?  あたしの手の甲に、大きな手のひらがそえられる。  少し震えている筋張った手が、あたしの手のひらを上に向けて、そこになにかをのせる。  闇の中で、それだけが虹色に光ってる。  虹色の……バラの……つぼみ……? 「ヨウちゃんっ!」  さけんだとたん、あたしは自分のベッドの中にいた。  二階の部屋の窓は開いていて、レースのカーテンが顔の前でふわふわと風に舞っている。  あたしの部屋。  勉強づくえや、ベッドの横のぬいぐるみや、ハート型の目覚まし時計が、夜闇にしずんでいる。  あたしはふとんの中から自分の手のひらを出して、開いてみた。  ……なんにもない……。  バラのつぼみなんか、持ってない。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加