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「ごめんね……あたし、お腹が痛いからトイレ行ってくる……」
「えっ!? 綾っ?」
「和泉?」
身をかがめて、あたしは廊下にかけだした。
前のドアから廊下に出たら、目の前にヨウちゃんと卯月先輩がいた。
「ね……あの子でしょ? 元カノって?」
卯月先輩が、ヨウちゃんのブレザーのそでをくんと引く。
ヨウちゃんの琥珀色の瞳が、チラッとあたしを見た。
そんな会話、ききたくないっ!
廊下をバタバタ走って逃げる。
なのに耳はダンボになっちゃってて、ふたりの会話をきこうとしてる。
「カワイイ子だね。小さくって、お花の精みたい」
卯月先輩のあからさまなお世辞に、ヨウちゃんはなんにも答えない。
「そうだな」とも「ちがうだろ」とも言わない。
あたしはトイレにかけ込んだ。
どうしよう……。
もっと強くならなきゃいけないのに。
ヨウちゃんが先輩とつきあってるところを見るくらい、慣れなきゃいけないのに。
一時間目がはじまってから、遅れて教室にもどってきて。一時間目の休み時間も、二時間目の休み時間も、三時間目の休み時間も、あたし、つくえにつっぷしてる。
だって、休み時間のたびに、卯月先輩がうちのクラスに来るんだもん。
で、お昼休み。
お弁当を食べ終わったと思ったら、また卯月先輩はやってきた。
ヨウちゃんを呼び出して、また廊下でずっとしゃべってる。
「……ふつうにウザいよね」
有香ちゃんがメガネの下の目をするどくして、廊下をにらんだ。
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