3/9
前へ
/136ページ
次へ
「ごめんね……あたし、お腹が痛いからトイレ行ってくる……」 「えっ!?  綾っ?」 「和泉?」  身をかがめて、あたしは廊下にかけだした。  前のドアから廊下に出たら、目の前にヨウちゃんと卯月先輩がいた。 「ね……あの子でしょ? 元カノって?」  卯月先輩が、ヨウちゃんのブレザーのそでをくんと引く。  ヨウちゃんの琥珀色の瞳が、チラッとあたしを見た。  そんな会話、ききたくないっ!  廊下をバタバタ走って逃げる。  なのに耳はダンボになっちゃってて、ふたりの会話をきこうとしてる。 「カワイイ子だね。小さくって、お花の精みたい」  卯月先輩のあからさまなお世辞に、ヨウちゃんはなんにも答えない。 「そうだな」とも「ちがうだろ」とも言わない。  あたしはトイレにかけ込んだ。  どうしよう……。  もっと強くならなきゃいけないのに。  ヨウちゃんが先輩とつきあってるところを見るくらい、慣れなきゃいけないのに。  一時間目がはじまってから、遅れて教室にもどってきて。一時間目の休み時間も、二時間目の休み時間も、三時間目の休み時間も、あたし、つくえにつっぷしてる。  だって、休み時間のたびに、卯月先輩がうちのクラスに来るんだもん。  で、お昼休み。  お弁当を食べ終わったと思ったら、また卯月先輩はやってきた。  ヨウちゃんを呼び出して、また廊下でずっとしゃべってる。 「……ふつうにウザいよね」  有香ちゃんがメガネの下の目をするどくして、廊下をにらんだ。
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加