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「……そんなことがあったの……」
カフェのカウンターの内側で、ヨウちゃんのお母さんがため息をついた。
アンティークな木目のテーブルがならぶ店内。壁のあちこちからドライハーブがさがっている。
薪ストーブの火はもうついていなかった。かわりに窓が開けはなされていて、海に面したウッドデッキで、パラソルが花開いている。そこで水平線をながめながら、お客さんたちがハーブティーを飲んでいる。
「……ヨウちゃんが、お母さんに話してないとは思ってなくて……なんにも言わないで、急に来なくなっちゃってごめんなさい」
カウンターのハイチェアに座って、あたしはお母さんに頭をさげた。
「ううん。あの子ね……前から無口なほうだったけど。最近、もっと無口なの。もうほとんど、わたしと会話してくれないのよ。
それで……きのう、急に口をきいたと思ったら……『新しいカノジョができたから』って。その一言よ。『どんな子?』『綾ちゃんは?』ってきいても、もう書斎に行っちゃって……」
「……そうなんですか……」
入学式で見たときは、お母さんと仲良さそうにしてたのに。
「……ヨウちゃんは……今でも、フェアリー・ドクターの薬をつくったりしてるんですか?」
「そうね。たいてい書斎にこもってるわね。よくそのまま、寝落ちしてるわ」
……そうなんだ……。
なんだか胸がふんわりした。
お母さんはほおづえをついて、窓の外の海に遠い目を向けている。
店内に流れるやわらかなハープの音色は、ケルトミュージック。あたしの前のカモミールティーから、湯気があがってる。
あ……ここちいい……。
まるで、毎日ここに遊びに来ていたころに、もどっちゃったみたい。
「お母さん。……フェアリー・ドクターの薬に……バラのつぼみをつかったものって、ありますか? たとえば、人の夢をあやつれるような……」
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