第二十六章 鈴木實⑫

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第二十六章 鈴木實⑫

豪州、蘭印の広大な制空権を握り続けた名指揮官 台湾に進駐してきた中華民国軍に武装解除されるも、自由を満喫  八月十七日、鈴木さんは、石垣島の零戦を台湾の台中基地に零戦を持って帰るよう命ぜられた。それからしばらくは、従来通りに空戦訓練を行ったり、数機ずつでの哨戒飛行を続けていたが、八月下旬になると、司令部からの命令でプロペラを外され、一切の飛行活動を禁じられてしまった。  九月上旬には、中華民国軍が、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の委託に基づき、日本軍の武装解除のため台湾に進駐してくるという通達が入った。ところが、基隆(きーるん)港に入港するという中国海軍が、予定日が過ぎ一週間近くたっても到着する気配がない。二〇五空では、数機の零戦にふたたびプロペラを取りつけて、捜索隊として飛ばせることになった。  このとき、台湾海峡で中国艦隊を発見したのは、総飛行時間約四千時間の記録を持つベテラン搭乗員、角田和男中尉である。角田が見たのは、沿岸漁業の地引網船ぐらいの小さな船が数十隻、中には帆船の姿もある。それぞれ信号旗を満艦飾に飾り立て、赤、青の色彩鮮やかな数十条の大幟を翻す、戦国時代の海賊船団さながらの姿であった。目測では速力がわからないほど、ゆっくりと海峡を南下している。このぶんだと、基隆に到着するのにあと二、三日はかかりそうだ。
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