第二十六章 鈴木實⑫

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 ほどなく、中国側の要請で零戦を全機、引き渡すことになり、鈴木さん以下数名が教官として高雄基地に派遣され、中国軍パイロットを指導することになった。聞けば、これを中国本土に空輸して八路軍(共産党軍)との内戦に備えるのだという。日の丸が青天白日の中華民国のマークに描き替えられてはいたが、ふたたびプロペラを取り付けられた零戦で、約一ヵ月間、鈴木さんは思う存分空を飛ぶことができた。  中国軍パイロットは、米軍の飛行服に身を包んだ少佐、大尉クラスの士官ばかり十数名。中国空軍は米軍と同じく、パイロットは士官だけであった。なかには、日本と同じような、大学出の予備士官もいる。  初めはよそよそしく、時に尊大なそぶりを見せた彼らも、互いに下手な英語、それでもわからないところは漢字の筆談でコミュニケーションをとるにつれ、日本海軍士官の漢文の素養に一目置くようになり、鈴木さんたち日本の搭乗員に親しみの態度を見せるようになった。
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