第二十六章 鈴木實⑬

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第二十六章 鈴木實⑬

豪州、蘭印の広大な制空権を握り続けた名指揮官 終戦の年の年末に帰国するも、待っていたのは戦後の混乱の中の生活苦だった  台湾の日本軍将兵が内地に帰れるのは何年先になるか、予想もつかなかった。内地と違って物資は比較的豊富で、食糧事情も悪くはなかったが、鈴木さんの部下たちは畑を耕し、自給自足の準備を始めた。  昭和二十(一九四五)年も終わりに近づいた頃、鈴木さんに、張中将よりじきじきに、「留用」の打診があった。このまま中国空軍で雇い入れるから、妻子を台湾に呼べという。 「これはたまらん、と思いましたね。台湾には、占領状況監視のため、米軍の一部も派遣されてたんですが、親しくなっていた米軍中佐に誘われてジープでドライブへ行く道すがら、『俺は長くおらされそうだ。早く帰りたいんだがなあ』とぼやいていました。そうしたら間もなくの十二月二十六日、突然、二〇五空の隊員に帰国命令が出たんです。驚いてその米軍中佐に訊ねると、彼は、『お前が早く帰りたいっていうから、大統領にかけあったんだ。忘れたのか?』と言ってウインクした。おかげで、思いがけず早く帰れることになりました」
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