前編

2/3
前へ
/12ページ
次へ
「マーゴット、君との婚約を破棄させてもらうよ」 「……ブラッドルー様、一体何を」  震える声と足と体を叱咤して、マーゴットはブラッドルーに立ち向かった。本日は王妃であるキャルシェアの誕生日を祝うパーティだった。そんな大きなパーティで息子のブラッドルーが婚約破棄を宣言した。  二人は幼少期から婚約を結んでいた。ブラッドルー・グラストリアはグラストリア王国の第一皇子だ。正妃譲りの光り輝く銀髪を受け継ぎ、グレイシルバーの瞳は冷たさを抱えていたが婚約者であるマーゴットと居る時は熱を孕んでいたことを城の誰もが知っていた。  建国以来の美丈夫として、ブラッドルーは周りから持て囃されていた。しかし、それに甘んじることはなく、清廉潔白な行いをブラッドルーは心がけていた。そんなブラッドルーがあれほど慈しんでいたマーゴットとの婚約破棄をしたいなどこの場にいる全員が衝撃を受けた。  対するマーゴットは、優雅に結い上げた金の髪を震わせ、庇護欲を誘う丸く大きなアメジスト色の瞳に涙をいっぱいに浮かべていた。マーゴット・トルーソン聞けば、一番先に思い出されるのはブラッドルーの婚約者。そして次に、トルーソン家の妖精姫と噂されていた。美しい二人は、社交界の憧れの存在だった。 「何を? それはこちらのセリフだよ。マーゴット。まさか君が不貞を働いていたとは……」  そう言ってブラッドルーは一枚の紙を胸元から取り出した。そして、詩でも読むかのように、高らかにかつ美しい声で中身を読み上げ始めた。 『親愛なるドリュー様。お手紙のお返事が遅くなりましたことを謝罪いたします。ここの所、お城に呼ばれることが多く、あまり自分の時間を持つことができませんの。けれども、私はいつでもドリュー様のことを思っております。詩を読む時も、花を楽しむ時も……いつも貴方様がお側にいればと何度思ったか分かりません。次に会える日を楽しみにお待ちしております。貴方のマーゴットより』 「ご丁寧にトルーソン家の蝋印まで押してある」  
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

398人が本棚に入れています
本棚に追加