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ブラッドルーが読み上げたのは、正にマーゴットの不貞を証明する手紙だった。しかし、マーゴットははいそうですかと婚約破棄を受け入れる訳には行かない。自身を叱咤するように、マーゴットは声を張り上げた。
「ブラッドルー様、それは!」
「黙れ! 美しい顔をして私を騙すなど……なんという女だ……」
「ちがう、ちがうわ……私は……」
言い訳をしようにも、喉奥に何かが張り付いたように声が出なかった。そして、ブラッドルーは、持っていた手紙をマーゴットの父と母に差し出していた。
「こんな女と私を結婚させようだなんて……私も舐められたものだ」
「お、皇子! これは、あくまで私どものしらないところで」
「そうですわ! あんな子、トルーソン家の子ではありません!」
おとうさま、おかあさま。マーゴットが唇がそう動いた瞬間、目の前を凄まじいスピードで何かが空を切った。そして、遅れて破裂音のような音が会場内に響き渡った。
「お前は! この、恥知らず!」
頬を叩かれた。マーゴットが気がついたのは口の中に鉄の味が広がった時だった。隣に立っていた兄がどうやら手のひらを振り下ろしたようだ。
会場内の他貴族達の戸惑い混じりのざわめきが大きくなっていく。
「静まれ」
ブラッドルーの一言で、会場内は水を打ったようになった。
「そこまで言うのなら、誠意を見せよ。この娘は、トルーソン家のものか?」
ブラッドルーの言葉を待たずに、マーゴットの父母、兄が声色高らかに宣言した。
「いいえ! あの娘は私たちの家とは全く関係の無い娘です」
まさか、そんな。マーゴットは震える手で口元を抑えた。視界が反転する。倒れるマーゴットを支える手は無かった。
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