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「水上君」 その日は、私にしては珍しくストレスを溜め、 とにかく誰かと話したかった。 「はい」 唇を突き出してノートパソコンに向き合っていた水上君は、反射的に返事をした後に一拍遅れて顔をあげた。 「いや、仕事じゃないんだけどさ」 水上君の隣に座るリーダーは朝から打ち合わせで席を外しているので、席をお借りして水上君に話しかける。 「仕事じゃないんだけどさぁ。水上君忙しいよねぇ、ごめんねぇ邪魔して」 そう言いながらも席を離れずグダグダしている私に 「大丈夫っすよ。自分いまメールチェックしてただけですから」 水上君が今抱えている仕事は納期がタイトであるにも関わらず、関係機関の協力がなかなか得られず進捗が芳しくないことは週次ミーティングに出ているメンバーならみんな知っていること。 もちろん私も知っている。 今もメールチェックなんて言ってるけど、 本当は関係機関との予定を調整したり、 プロジェクトのスケジュール自体を見直したり。 多分そんな事をしていたのだと思う。 そんな忙しい中、ウェルカム!という態度ではもちろんないけれど、 邪険にしたり迷惑そうにしたりもしない。 感情の起伏が激しくないのは他人に興味がないからなのか、彼が私の認識よりも大人だからなのか。 それすらも良くわからないのだけれども。 「ちょっとねぇ、やる気出ないんだよねぇ」 グループも違う、ましてや抱えてる仕事に 何の接点もない私から「やる気出ない」なんてグダグダ訴えられても困るだろうに、 「自分はいつもやる気ないですよ」 これまた例の半笑いで、 非難するでもなく、 励ますでもなく、 返してくれる。 「水上君がやる気ないとかあるのぉ?」 ミーティングでの報告を聞く限り、 確かにめっちゃやる気ある!という感じではないけれども、 かといって手を抜いてるわけでもない。 抜ける手は抜けるように仕組みを作ることはあるけれども、 それはその分の時間と労力を他に費やすための仕組みであり、 私がいうところの「やる気のなさ」とは全くもって違うもの。 「いや、本当に自分はいつもやる気ないです」 片手間に話を聞くという風でもなく、 手を止めて話し相手になってくれている。 それだけで、ストレスで疲弊しきっていたココロがちょっぴり潤ってくる。
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