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「お、お待たせしました!」 部内での懇親会、会社を出る直前に電話を受けてしまった私は20分も集合時間に遅れてしまった。 部員は私が電話を受けているのを見ていたので、遅刻に対するお咎めはなかったけれど、懐石料理のお店を予約してあるので、急がなければならない。 「電車よりタクシーのほうが早いな。分乗して行こう」 部長の一声で、南雲君がすぐさまタクシーを2台停めた。 私は定年間近の部長をおじいちゃんのように思っていて、当たり前のように部長のタクシーに乗り込んだのだけど、隣には水上君がちゃっかり座って、その向こうに部長がニコニコしながら座っていた。 この時、普段は何も考えていないように見えていた水上君も、実は常識的な人間だったのかぁとちょっと見直した。 車の後部座席、真ん中の席は下座。 部長はもちろんのこと、先輩である私も座らせず、自らそこに座るとは、えらい! なおかつ、長身で脚の長い水上君はとても狭そうに座っているのに手は天井に着いている。 「その手、何?」 不思議に思って聞いてみると 「曲がるとき案外身体が振れるんですよ」 言ってる側からタクシーが大きくカーブして、身体が振れた。「ほらね」 普段は言葉を発しない水上君が普通に喋ったことに内心驚き、ハラスメントに煩い昨今、女性(私ね)の身体に不用意に触れないように気配りまで出来ることには更に驚いた。 意外と紳士なんじゃない。 水上君を見る目は、この日から大きく変わってしまった。
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