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結果的にそれは、更にオレの価値を高めてしまった。 幼少期から何かを学ぶことが好きだったオレは、受験勉強がさほど苦にはならず、学んでいるうちに「最難関にチャレンジしたい」という欲も出てきて、今思うと小学生が良くあれだけの課題に取り組んだものだと、自分でも驚くほどの努力をした。 努力の結果、御三家と呼ばれる男子校に進学し、学力だけではなく、親の経済力や見た目の良さにおいても、自分がさほど特別な人間ではないと思える環境に身を置くことが出来たというのは、自分にとって中学受験で得た大きな意味があった。 政治家やタレントの息子なんていうのは珍しくもなく、元華族の家柄だとか、中国王朝の末裔なんてのもいて、親が大手外資系企業の役付きだろうと、大きく見れば一介のサラリーマン家庭である自分はごく平凡なんだと自然に思えた。 そんな華々しい家庭環境の奴等も、学生時代は親に甘えっぱなしでありながら、親と自分は別の人間であると考えていて、社会に出てまで親の資産を当てにするやつはいなかった。 でも、これだけのバックグランドを持つオレらに近づいてくる女はウンザリするくらいいて、小学生の時ほど純真無垢ではなくなったオレは、気が向いたら、オレ自身をまともに知ろうともしないようなオンナと付き合ったりもした。 そのうち、興味を持てない人間に割く時間が無駄だということに気付いて、社会に出る頃には相手をしなくなった。 もちろん、興味を持てる相手が現れればちゃんと向き合おうと思っていたけれど、残念ながらオレの付加価値にばかり目を向けられ、オレ自身に目を向けるオンナはゼロだった。 そんなことで悲観するほどの純粋さは大学にあがる頃には既に手放していたし、社会人になって自分で稼ぐようになってからは独りで過ごす時間の贅沢さも身につけていた。 誰にも邪魔されず、自分の興味のむくままに時間と金と労力を遣う。そこには煩わしさもなければ、虚しさもない。 あるのは自分を満たすことが出来ている充足感だけだ。
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