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結局あの夜の葉山さんは、変態になるからやらないと言っていたのに、しっかりとオレに抱きついてきて、まるでネコのように頭を擦り付けてきたのだけど、あの言動は本当に言葉にできない感情をもたらしたと思う。 言葉にできないというより、全く知らない感情をもたらしたと言うのが正しいのかもしれない。 スモークサーモンとクリームチーズをクラッカーに載せるだけの簡単なフィンガーフードを摘みながら、泡を傾け、そういえば、あの夜の前からなんとなく葉山さんの事は気になっていたのかもしれないと思い至る。 気が付くとオレを見ていたり、お菓子で気を引こうとしたりしていたから、他のオンナ同様にちょっと微笑んでみたり、少し好意に応えてみたりしてみたけれど、それで色目を使ってすり寄ってきたり、見返りを求めたりする素振りは一切無かった。 懐かない野良猫をどうにかして手懐けようと画策して、少し反応してきた野良猫の素振りに歓喜している様子が子供と同じで、なのに、少し話す機会が無くなっただけで嘘みたいにオレに興味を示さなくなったのが分かった。 その素直さが好ましいのと同時に、オレに対する執着の無さに少しイラついたことすらあった。 イラついている時点で、相当な興味を持っていたんだと今だからわかる。 だから、あの夜の葉山さんの要望にあっさりと応えてしまったし、あの夜以降も自分から食事に誘ったりと我ながら不可解な行動を取ってきた。 そして知らないうちに、気付かないうちに、葉山さんに近付こうとしていた自分。 それは葉山さんを性的にどうにかしたいというよりは、ただ傍にいたい、それだけ。 中学生の純愛ともまた違う(と思う)。 だからこれは、恋愛ではないのだろうと思うけれど、傍にいるために実験台になって欲しいと言った。 理由をつけて、ひたすら甘やかして、だけどそれは葉山さんではなくてオレ自身を満足させているに過ぎない。
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