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恵菜は美人ではない。
子供の頃から30なかばに
差し掛かる今に至るまで
それは変わらなかった。
大人になったら
キレイになれるかも……
そんな淡い期待はとうの昔
何処かへ置いてきた。
そんな恵菜でも周囲から
唯一褒められ続けていたモノがある。
それは肌の美しさだった。
何の取り柄も無い恵菜を
その点だけは母親も褒めた。
「黒須賀さんって
ホント肌綺麗よねぇ」
小学生の頃、
担任の女性教師が
ため息混じりに言った言葉が
周りの娘より幾分か早く
恵菜を目醒めさせた。
他の娘が肌の手入れどころか
体育の時間ムダ毛が伸びた手足を
平気で晒していた頃だ。
優越感からクラスのそんな女子達を
恵菜は知能が低い
小動物のように見ていた。
中学に入学する頃には
髪や肌の手入れも更に
手が込んでいった。
日々眉や爪を自然な感じに整え
美肌がニキビに荒らされないよう
注意深く見張った。
1日の終わりには
たっぷりと潤いを与え、
肌のカサつきなど
絶対に許さなかった。
恵菜に無関心だった母親は
自分の化粧品の減りが以前より
早くなった事に
気が付いていただろうか。
中校生になると小動物の中にも
いかにも塗りましたというような
どピンクのリップを付けたり、
手入れがされていない爪に奇抜な色の
マニキュアを塗る娘が出現した。
わずかに進化した小動物は少しばかり
大人を気取っているらしかった。
でもそんな進化は恵菜から見れば
サルがアウストラロピテクスに
進化したに過ぎなかった。
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