【蝸牛】黒須賀 恵菜 (くろすか えな)

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少し年齢が違うというだけで この扱いの違いは何なのだろう。 メイクの技術を持ってすれば 少なくとも2、3歳の差なんて 簡単に埋められるのに……。 恵菜は釈然としない思いで 何も考えずカウンターに座る後輩へと 目を向けた。 改めて見てみると年齢が若いという たったそれだけの違いなのに、 内側から弾ける生命力のようなものを 彼女達から感じた。 自分がカウンターに座っていた頃には 恵菜自身その事に 全く気付いていなかった。 そして、ようやく気がついた。 流行りのアイシャドウで 目元を彩っても 印象的に強くラインを引いたとしても 表情が明るく見える ファンデーションでごまかしてみても もう20代の肌と同じではないのだと。 恵菜がそんな肌格差を まざまざと感じ打ちひしがれている ところを狙いすましたかのように、 結婚して辞めていった先輩や同僚から 『赤ちゃんが産まれました』葉書が 次々届いた。 恵菜の進化は止まっていた。 かつては見下して 進化の過程を余裕で 観察していたハズが 小動物達は進化を止める事なく いつしか恵菜を抜き去っていた。 いつの間にか美しく進化して 収まるべき所に収まっていった 小動物達。 結婚して子孫を残すわけでもなく、 出産と引きかえに 仕事で名を残すわけでもない。 自分の立っている場所がわからない。 そして、美肌における下克上……。 恵菜は毎日屈辱を感じずには いられなかった。
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