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「逃げなさい…大丈夫、後から追い付くから」
後から追い付くとか…嘘つき
待っても
待っても
母上は追い付いては来なかった…
あの日
唸るような暑い暑い夏の夜
私と母上はお祭りに出掛けていた
楽しいお祭りになるはずだったのに
阿片でおかしくなった浪士の所為で
楽しいはずのお祭りが悪夢へと変わった
母上に諭されて私は逃げて隠れていた
母上が追い付いてくるのをずっと待っていた
なのに母上は現れなかった
一刻…一刻が長く感じた
そして私はいつしか眠っていた…
夜が明けるか明けないかの頃
目を覚ました私は
母上と別れた場所に行くと
そこにはなにもなかった
そう…楽しい祭り囃子も
賑やかな声も
あるのは血に染まった人達…
そこには母上もいた
そうなにもなかった…
あの悪夢の日から
私は感情を出すことがなくなった
笑うことを忘れた
泣くことを忘れた
ただ生きているだけの人形になった
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