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今日は特別な日だ。
この世界が悪い魔王に支配され、狂暴なモンスターたちがはびこるようになって数十年。
僕が生まれる前から、人間たちは明日の希望すら
持てない暮らしをしていた。
でも、それも今日で変わるはずだ。
なぜなら、村に昔から伝わる伝説の剣を抜いたからだ。
村の大人たちの目を盗んで、
僕は幼なじみの少女と、村の祠に忍び込み、
闇を払う力があると言われている、
地面に突き刺さった伝説の剣を掴み、
思いっきり引き抜いた。
「勇者様、この日が来るのを待っていました」
剣を抜いた直後、どこからともなく光が集まり、
小さな羽の生えた妖精が、現れるそう言った。
「魔王を倒すために、今こそ旅立ちの時です!」
妖精は周りをクルクルと飛び回り、光の粒子を
撒き散らす。
すると、異変に気づいた大人たちがすぐに集まってきて、勇者の誕生に涙を流しながら喜んだ。
自分の使命を知ったことで、勇者は旅立つ覚悟を
決める。
明日の旅立ちを前に、大人たちが豪華な料理を
用意して、村中はお祭り騒ぎだった。
◇◆◇◆◇
一夜明け、冒険の服に着替えた勇者は、
村の門に立っていた。
村の大人が、勇者に希望を託す。
《そして僕は、勇者になった幼なじみの少女を
見つめる》
「それじゃ行ってくるね」
少女は僕に笑いかける。
「・・・・・・うん。気を付けて」
少女はニコッと笑い、背を向けて歩き出す。
「・・・・・・・・・・・」
遠ざかる少女を見ながら、僕は自分の使命を
自覚する。
僕はーーーーーただの村人Aだったんだ。
特別なところなんてなにもない。
ただの、ただの村人Aだ。
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