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「涙を流すための薬」というものが作られました。
それはもう大ヒットを記録しました。泣くという行動はストレスを発散させるためにはとても効果的なことで、ストレスがたまる現代社会にはもってこいの薬なんだ、と。
「お嬢ちゃん。その薬、買うのかい?」
ぼんやりとその薬を眺めていたら、お店のおじさんにそう話しかけられました。
「……いいえ。いらない」
「そうかい。まぁお嬢ちゃんのような小さな子にはこんなものいらないか」
「そうね。わたし、そんなにストレスのたまる生活してないみたいだから」
「そりゃあ良かった」
にっこりと笑ってそう言ったおじさんは、でも、顔を曇らせました。
「それならいいんだけどなぁ。たまに、お嬢ちゃんくらいの、それかもっと小さい子供がこの薬を買っていくんだ。六歳か、七歳くらい」
「……」
「そのくらいの子供っていったら、まだぎゃんぎゃん泣きわめくくらいだろう? なのにわざわざ薬を買うだなんて、ってなんだか不憫でなぁ」
「……そうね。そうかもしれない。子供だって、ストレスを感じてる子はいるのかも」
「そうかい。お嬢ちゃんくらいの子が言うんだから、そうかもしれないな」
悲しそうにおじさんは言います。
「この薬が売れるから、って仕入れたのはいいんだがよぅ……売れるは売れるし、この薬が駄目だってことを言うつもりはないんだが……どうも、涙って、薬で無理矢理出すものだったかなぁと思うと……ああ、いや、お嬢ちゃんに言ってもしょうがないことだな。すまんすまん」
一つ、赤い赤い包み紙にくるまれたあめが差し出されました。
「これやるよ。さあお家に帰んな」
「ありがとうございます」
お辞儀をして、踵を返します。ショーウィンドゥに置いてあった薬は、無くなっていました。
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