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虹彩認識のモニターを覗き込んだら、わたしのみどり色の目が無感情にこちらを覗き返してきます。ぴぴっ、と認識された音。
うぃん、と小さな音を立てて、わたしの家のドアは開きます。
「ただいま帰りました、ドク」
大声ひとつ。ドクがいるのであろう研究室に、今日は入らないことに決めてます。昨日実験が上手くいかなかったとかでピリピリしてたので、どうせ今日も、いらいら、いらいら。
「―――みどり、お帰り」
「……ドク。ただいま帰りました」
「うん、それ、聞いた」
やけににこにこと機嫌よく笑うドクが、こっちにおいで、とわたしを手招きしました。
「実験が上手くいったんだ。化合物の割合を変えたら上手くいったんだ」
「はぁ、そうなんですか」
ドクの言うことはよく解らないので、適当に返事をします。いつものこと。ぺらぺらとめどなく喋るドクだって、わたしの反応を気にかけてる訳ではないのです。だから、まぁ、お互い様。
なかなか使わない、ひと揃えのテーブルと椅子。マグカップをテーブルに置いて、ドクはそういえば、と言いました。
「みどり、街に出掛けたんだろう?」
「……はい。そうですが」
「『涙を流すための薬』売れてた?」
「……ええ。売れてました、けれど?」
「そっかそっか。それならよかった」
「もしやと思っていたんですけど、あれ、ドクが作ったんですか?」
「え?あ、うん、そう。そういえば、みどりには言ってなかったっけ」
コーヒーをすすりながらドクはどこかを見詰めます。それは、きっと、わたしが知らない向こう側。
「どうだった?街の様子は」
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