第5章 バデル・ジオメラ

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第5章 バデル・ジオメラ

「このテラフォーミングシステムがあれば、どんな惑星だろうが地球化は可能な筈だ!」バデル・ジオメラは自分の理論を自画自賛して、隣で静かに本を読む男の背中を叩いた。「くだらない…お前のフロンティア理論などゴミだよゴミ…」男は眼鏡の位置を正しながら機械の様に抑揚無くそう言うと目線を読んでいた本へと向け、没頭しはじめた。 「イワンお前はわかっちゃいないよ!ちゃんと読んでみろよ!理解できる筈だ!」 バデル・ジオメラは完全否定したイワン・ストロノコフへ怒りを向ける訳でもなく、必死で理解を求めているかのようで、本とイワンの間へ割って入るほど熱く語っていた。 「わかったわかった…聞いてやるから話して見ろよ…」イワンは顔にはでないが呆れてしまい根負けしたので静かに本を閉じ、眼鏡の位置を正しながら機械の様に抑揚無くそう言うと体をバデルの方へと向けた。 バデル・ジオメラとイワン・ストロノコフはMITでも異質の存在であった。二人とも数学に強かったが文学にも精通し、大学の教授達が彼らに質問をするほどであった。 「やはり…お前のこの理論は欠陥だらけだな…答えは出てはいるが理解にはほど遠い…お前には理解できていても説明が陳腐すぎて話にならないな…お前はプレゼンがヘタすぎるぞ…」イワンがえぐるように抑揚無く言うとバデルは静かにうなずき…頭を掻いた… MITの卒論に取り組んで数ヶ月…突如、イワンの耳に信じられない話が飛び込んできた。 「バデル・ジオメラが学内で窃盗事件を起こし…その後、自殺したと…」 「なぜ…そうなった…」イワンは学内中を歩き周りあらゆる人々に尋ねたが、皆が口をつぐみイワンに何も話そうとはしなかった。イワンはその数日後、MITを去った。 イワンには聞こえているだろうが、恭次郎はお構い無しにイワンの経歴を口に出して言った。 「しかしながら、彼がフロンティア理論とルシファ粒子理論を完成させていることは、間違いありませんわ…」ミシェルは格調高く胸を張って言った。 「新たなテラフォーミング理論とエネルギー理論か…確かに救世主だな…」恭次郎は自分達を無視して静かに書類に没頭するイワンを見ながら言った。ミシェルは恭次郎に手と表情でどうするのか尋ねた。 「遠回しは苦手なんだよな…」恭次郎は日本語でそう言うとイワンと研究書類の間に割って入った。 「イワンお前はわかっちゃいないよ!話を聞いてくれれば!理解できる筈だ!」
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