裏庭での出会い

3/9
前へ
/139ページ
次へ
今日は確かに朝、秦名先輩に挨拶ついでにちょっとした世間話を持ち掛けてみた。 秦名先輩はいつもこちらの話しかけに答えてくれることはないが、去り際には必ず一礼してくれる。 こんな俺に対しても礼儀正しく接してくれるいい先輩だ。 今も尚、目の前で「大体君は友達の1人でも作ったらどうだ」だの「なんならうちの親衛隊に入ってくれたら良くしてあげるよ」だのと、説教じみた言葉を並べている先輩も、そんな秦名先輩の不器用な優しさに惚れ込んでいるみたいだ。 この先輩も悪い人ではない、寧ろなんだかんだでこちらを気にかけてくれるいい先輩なのだが。 今日のように声をかけられるのは何も一度や二度のことではない。 先輩のしつこさは逆に尊敬に値するよ。 こういった場合の返しは毎度決まっている。 「何度も言ってますが、僕の考えが変わることはありませんよ? 僕は親衛隊に入ることもなければ、秦名先輩方に話しかける行為を辞めることもない。 大体、僕には親衛隊に入るメリットが見出だせませんね。 僕は秦名先輩方に話しかけたい時に話しかけます。 親衛隊の様な行動が制限されている組織に入る道理はありません。 それに、僕はあなた達の様な群れる人種は嫌いです。 その一員に加わるなんて、天地がひっくり返ってもありえませんから。」 「失礼します。」と最後に付け足し先輩方の脇を抜けてその場を去る。 両脇で黙っていたお付きの先輩方がキャンキャンと俺に文句を投げつける中、俺の長々とした全否定の言葉を聞いた親衛隊の長と見受けられる先輩(残念ながら名前は存じ上げていない。顔は散々合わせて来たのだがな。)は「いつか制裁受けても知らないんだからね!」とこちらに投げかけそれ以上何も言ってくることは無かった。 くっ、演技とはいえ先輩にあのような口利きをするのはやはり心苦しい…。 いい加減態度の悪い先輩に対しては割り切れているが、如何せん先程の先輩は口うるささに目を瞑ればとても良い先輩だ。 せめて先輩が卒業する時くらいはお礼を言おうか、などと考えつつも、足は目的の場所へと辿り着く。 そこは俺がいつも昼食をとる時に使う、特別棟の裏手にある庭園だ。
/139ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1651人が本棚に入れています
本棚に追加