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「やっぱりあんたには私の声が聞こえてるのね。ほら、ちゃんと説明しなさいよ!写真のことも!」
面倒なのに絡まれてしまった。説明も何も、自分が一番よく分かっているだろう。念のため周りに誰もいないことを確認する。こうしている今も他からは奇妙な行動をしているようにしか見えないんだよな。
「……お前死んだ。成仏できてない。幽霊。以上」
「説明になってなーい!」
「これ以上ない的確な説明だろ」
「意味わかんない!私死んでないし!」
「じゃあ写真になんで写らなかったんだよ」
「うっ……。ぎゃ、逆光よ、逆光!」
「そんなことあってたまるか」
「じゃああれね、もし私が幽霊だとしたら心霊写真として写るはずだわ!何も写ってないってことは、逆説的に私は幽霊じゃない!」
「ならもういいだろ。じゃあな」
「だから待ちなさいって!」
何なんだよさっきから……。こんなところを万一クラスメイトにでも見られてしまったらまた良からぬ噂を立てられてしまう。深く溜息をついてから、子どもをあやすように話しかけた。
「落ち着いてゆっくり思い出せ。……最後の記憶があるだろ?」
死ぬ直前の、記憶が。
経験上、何かしらの強い思いを持って亡くなった人が幽霊の姿となって彷徨っている。辛いことを思い出させるのは申し訳ないが、死んだことを自覚すればやり残したことも同時に思い出すだろう。
「記憶?無いわよ、そんなの」
「……は?」
……記憶がない?
「だから記憶がないんだって!気が付いたらここにいてみんなに無視されてんの!」
「意味わかんねぇ……」
「私の台詞よ」
気が付かないうちに死んでしまったら、混乱して記憶が曖昧になってしまうことはあるかもしれない。でも生前の記憶がないなんて……。今までそんなやつに会ったこともないし、未練がなければこの世に留まっていられない、はずだ。死後のシステムを熟知はしていないが、満足して成仏していったのなら何度か目の前で見て来た。
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