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この人は誰だろう。向こうはわたしのこと知っているみたいだけど。何も返事をしていないのに、男性はにこにこしながら話を続けた。
「あっ、これはねー、ケーキ作ってるんだよ。おやつに食べようと思って。今日は誕生日だもんね」
今日が君の誕生日。
夢の中で聞いた声が、ふっと蘇る。そしてわたしは無意識に問いかけていた。
「…今日は、わたしの誕生日なの?」
「あはは、何言ってるの?そうだよ」
男性は特に不審がる様子もなくそう答えた。
「わたし、忘れちゃったの」
「ん?誕生日を?」
「…全部。記憶が全部ないの」
この男性は、わたしと親しいような感じがする。誕生日のお祝いをしてくれているし、わたしが起きてきたのを当たり前のように接してくれている。だから今はこの人に頼るしかない。
「全部って…俺のことも?」
男性は目を瞬かせている。
「うん。あなたのことも、自分のことも、全部。わたしの名前、なんていうの?」
「え、つ、つまり、記憶喪失ってこと?」
「そうなるね」
「な、なんでこんな急に。どこかぶつけたりしたの?」
「わからない。覚えてないから」
「そ、そうか。怪我がないか確認しないと…」
男性は混乱している様子ながらも、答えてくれた。
「あ、それで、君の名前は灯里だよ。あかりちゃん。俺は灯里ちゃんの彼氏で、名前は孝太」
「灯里…」
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