1日目side:A

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自分の名前を聞いても、特に記憶が戻る様子はない。本当に自分の名前なのかも、なんだか確信が持てない。 孝太は自分を落ち着けるように、淡々と話を続けた。 「俺と灯里ちゃんは一緒に住んでいるんだ。昨日の夜寝るまでは、記憶喪失なんてしてなかったんだけど…」 孝太は首を傾げた。 記憶喪失って、何が原因でなるものなんだろう。普通に生活してて、突然起きるものなんだろうか。 「それにしても、灯里ちゃんは冷静だね。自分の記憶が一切なくなってるっていうのに」 「そうかもね。でもなんだか、現実感がなくて」 孝太…この人が、わたしの彼氏。そう思ってよく見ると、かっこいいような気がしないでもない。優しそうだし、料理も作れるみたいだし、なかなかいい人、なのかな。 じっと見ていたら、孝太ははにかむように笑った。 「そんなに見られると恥ずかしいな」 「孝太はよく笑うね」 「そうかな」 「あなたのこと、思い出せたらいいんだけど」 「まあ…記憶なんてすぐ戻るんじゃない?寝ぼけてるだけだったりして」 たしかに、これは一時的なものなのかもしれない。それならいっそ、記憶が全くない状態をもっと楽しんでみてもいいかも。
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