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焼き鳥屋さんの前で別れた時、家門さんはわたしと同じように仕事終わりそのままだったからスーツの上にコートを着ていた。
けれど今、ロビーの前にいる彼はスウェット姿にコートを羽織っているだけ。
それが意味することが過り、思わずバッグを取り落としそうになってしまった。
「家門……さん」
今一番顔を見たくない相手だった。
瞼の奥の奥が、ちりちりと刺すような熱さを持ち始める。
まさか一晩中ここにいたんですか、と。
喉の奥で言葉が何度も渋滞を起こし、吐きそうになる。
彼はわたしを上から下まで凝視し、はぁと溜め息をついた。
「……眠れたんか」
抑揚のない声に、びくりと身をすくめる。
こんな冷たいこの人の声を、初めて聴いた。
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