第5話 魔女の醜悪

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   初対面の時でさえ、もう少し温度があったような気がするのに。  ……そう思いたいだけ、なのかも知れないけれど。 「聴こえてんのか」  返事をできずにいると、追い打ちをかけるようにもう一度訊かれる。  声を出したらすべてが崩れてしまいそうで、黙ってかぶりを振った。  泣いちゃ、だめだ。  わたしが悪いのに、この人の前で涙を見せるなんて卑怯だ。  家門さんはふうと溜め息をつき、ポケットに手を突っ込んでゆらりと立ち上がる。  その姿も声も仕草も、なにもかもに現実感がなかった。  家門さんはゆったりとわたしに向かって歩を進める。  肉食動物が自分のテリトリーを巡回する姿を思わせるその動きは、彼自身の人としての強さをわたしに見せつけてくるようだ。 .
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