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それはわかってるよと、流は顔をしかめて舌を出した。だけど、一ノ瀬にこっちの顔なんか見えやしない。ゴーグルをかけ、マスクがわりに口元に巻いたタオルであごから伝う汗を拭う。こっちはゴミの中、あっちは冷房のついた監視小屋の中。長靴の中もつなぎのズボンも、Tシャツまで汗でだくだくだというのに、ヤツは数百メートル離れた涼しいとこから拡声器で、しかも名指しで指摘してくる。
「うるせー。いつかその頭の毛、全部剃ってやる」
流はシャベルを必死に動かし、危険物に埋もれた家電を探し続けた。
他の仲間は運転席にクーラーの付いた大型の人型ショベルカーで掘り返し、下っ端の流はその跡地を追いかけるようにシャベルで掘っていく。いつぞやも、我慢できずに一ノ瀬に言ったのだ。
「俺ばっかりこんな役回りじゃやってけねーよ」
しかし、一ノ瀬はその薄くなった頭をゆらりゆらりと動かしながら、流を見下した。
「お前のような役立たずを雇ってやるだけでもありがたいと思え。今時、社会保障までしっかりサポートしてくれる会社なんて稀なんだぞ。こんなことでへこたれてちゃ、将来の蓄えがどうのなんて大口叩いてもどうなるかわかったもんじゃねえ」
思い出せばむかむかするが、確かに暮らしにゃ困ってない。仕事はきついが、寝る場所と喰うものがあるだけマシ、そう思って今まで頑張ってきたんだ。今更辞める気なんてさらさらない。が、せめてあの、禿げるなら禿げてしまえばいいのに中途半端に留まったヤツの頭の毛を全部剃ってやらないことには気がすまない。そんなくだらない執念だけで、流は動いていた。
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