二人の距離

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 美伽と新宿の映画館に行ったのはお正月前だった。人気映画は大変な混雑で、美伽を座らせて僕は隣で立ち見をした。見終わった彼女は楽しそうだったな、と改めて思い出した。 「ねえ、領家くん。もし過去に行けるとしたら、行ってみたい?」 「過去かあ、何かやり残したことでも出来たら、行ってみたいかな」 「私はね、絶対に行ってみたいんだ……」  美伽が寂しそうに呟く。 「ふ~ん、関根は何か過去でやりたい事とか、見たい事とかあるの?」  気になった僕は様子を伺いながら尋ねてみる。 「あのね、最初に転校した時にあんまり標準語で喋らないようにする。それから綺麗な水筒持っていかない。筆箱も汚れたやつを持っていくの……」 「ああ、新潟に転校した時の話ね」  東京でもいい服装で浮いていたんだから、きっとあっちでも浮いていたんだろうなと思った。 「そう! 私はあれで馴染めなかったのかなって。それをずっと引きずってるのかなって思うんだけど」  美伽がそんなことを言うのは決して初めてではなかった、転校は嫌だという話はよく聞いた。転校経験の無い僕はこの話題だけは慰めるのに苦労して、生返事を繰り返していた。 「でもね、たとえ過去に行ってもお母さんのこと好きだから、多分言われた通りに服を着て、水筒と筆箱持って行くんだろうなあ」 「お母さんを、心配させないように?」 「うん、そう。私のお母さんって心配性だから」     
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