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関根美伽
「領家くん……」
僕を呼ぶ声がした。僕の名前、領家陽介。
どこにでもいる中学二年。そして声を掛けたメガネの少女が関根美伽、彼女もどこにでもいる中学生。僕は後ろを振り返りながら返事をする。
「なに?」
「ちょっと……後でいいかな?」
彼女は少しためらい気味に言葉をよこす。ためらい気味と言ったけれど、この子はいつも何かをためらっている。小学校で転校してきた時もそうだった。
「ああ、いいよ。でも後っていつ?」
「学校終わってから……、アパートの入り口で……」
分かったよ、と言って僕は姿勢を戻した。美伽は同じ敷地にあるアパートの別棟に住んでいる。僕は特に付き合っているつもりも無かったし、好意があるという気持ちも無いつもりだった。
☆ ☆ ☆
美伽が同じクラスに転校してきたのは小学校五年の冬。お父さんの仕事が金融関係で、二年から三年間隔で転校を繰り返している女の子だった。偶然同じアパートに引っ越してきたので、初日から仲良くなった。
東京に来る前は、新潟に三年、仙台に二年住んでいて少し方言が残っていた。それがおかしいと笑われ、転校初日からあまり積極的に話さなかった。
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