6人が本棚に入れています
本棚に追加
リビングの中に入るとお母さんが紅茶をいれてくれる、これもいつものことだ。なにしろティーバッグじゃない紅茶なんて、この家でしか飲んだことがない。
「領家君、ごめんなさいね、いつも美伽が我儘ばっかり言って」
お母さんはいつもそう言うけれど、僕は美伽がそんなに我儘ばかり言ってるところを見たことがない。
「いえ、ホントに我儘とか……あんまり言わないですよ」
僕は何度飲んでも慣れない高級な紅茶を飲みながら、そう答えた。
「本当にそうなの? 家ではいろいろ我儘言ってるけどね」
「どちらかと言うと、学校では何も言わない方です」
「ああ……、学校ではね、美伽は昔からそうね。でも領家君にはいろいろ言ってると思ってね」
「そうですね、学校では言わないことを、僕には言ってますね」
「やっぱりそうなのね……」
笑うかな、と思ったお母さんが寂しそうな顔になったのが僕には意外だった。
「まあ、美伽のことをよろしくお願いね。遅くなるようだったら電話をいれてね」
そう言ってお母さんは美伽の部屋へ呼びに向かった。
美伽の荷物は重たそうだった。僕が思った通り魔法瓶も彼女は準備していたし、それに加えて毛布、レジャーシート、双眼鏡、おやつ類、もうリュックサックはパンパンだった。
「なあ、関根。荷物を取り替えたほうがいいよ。俺のは軽いからさあ、そっちを持つよ」
最初のコメントを投稿しよう!