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苦い苦いチョコレート
「もうなんでよ……」
私はオーブンを開けて、今日何回目かのため息をついた。
浅野香織 24歳。
付き合いたての彼に贈る初めてのバレンタイン。
「どうしよう……」
目の前で真っ黒に焦げてしまったガトーショコラを、呆然と見た後少し口に入れてみる。
「苦い……」
いつも行くBARで声を掛けられた、年上の弘樹君と付き合いだして数か月。
「ナンパ……だよね」
その出会いだけでも私の中は常に不安。ひょっとして遊ばれてる?ちょっと声をかけてみただけ?だって弘樹君はモテる。大手広告代理店で役職もついていて、お父様も大きい会社の社長さんで、外見も中身も完璧。
こないだ現れた元カノは私なんか足元に及ばないような、大人の女の人だった。
「なんで私?」
せっかくのバレンタインも、上手くできないチョコレートのように私の気分も沈んでいく。
「ちょっとぐらい、私だってできるんだって思ってもらいたかったのにな」
そう私は女らしい事ができない。料理も苦手だし、甘えるのも下手。
こんなに不安なのに、いつも平気なふりばかり。
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