プロローグ

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深夜午前2時頃、ひとりの若い女性が 15階だてマンションの屋上に、小さく 佇んでいる。辺りは午後からの雨が断続的 に降り続ており、女は全身びしょ濡れで あった。 恐る恐る女は何度も、眼下のアスファルト 路面を覗き込んでいる。下から見れば、 頭を出したり引っ込めたりを何度も 繰り返していた。気温が下がるとともに ますます勢いを増して降っていたが、女の 顔はそれに関係なく、思い詰めた様な悲壮 な雰囲気を周囲に漂わせていた。 突然、女が意を決したようにゆっくりと 立ち上がり、屋上のヘリに立つ。その瞬間 両手を広げて重心を前に傾けながら、 一気に飛んだ。宙に浮いた身体は重力の 法則に則り、僅か数秒で地上の固い アスファルト路面に叩きつけられた。 ( ドスンッ!! ) 周囲に、大きく鈍い音がこだました。落下 した女の肉体は一瞬、マネキン人形の様に 見間違えたが、身体の周りから真っ赤な 鮮血が流れ出ている。そして、 間も無く雨が止んだ。 その時だった、黒い影が近づくと その場から逃げ去る様に走り去った。少し 離れた場所から、白い子犬が動かなく なった女をいつまでも、悲壮な瞳で 見つめていた。
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