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「家に帰ろう。なあ和樹。すべて家の中で決着をつけるんだ」
優しい声音が何より恐ろしい。
柔らかいニットが肌に触れる度
魔王のマントに抱かれて攫われる気がする。
「悪いようにはしないで……」
しかし僕はもう
著しく抵抗力を失くし
「ああ、悪いようにはしないさ」
万に一つも信じられない言葉を
鵜呑みにする他なかった。
「呼んだら屋敷へ来い――逃げようなんて思うなよ」
征司は僕の肩を抱き立ち上がると
割に軽い口調で薄井に言った。
「こんな傷で済んだこと、お義兄様に感謝しな――」
立ち尽くす男の傷口に
そっと触れたかと思いきや。
「くっ……!」
無言のままみぞおちに重い拳を打ち据える。
「行くぞ」
苦悶の表情でベッドに沈む男の横顔がチラリと見えたが。
王様は僕が振り返る事さえ許さなかった。
「帰りにエスプレッソを飲もう。カフェインが欲しい気分だ」
それから真夜中にエスプレッソを所望した。
僕は「はい」とだけ答えて今は全ての思考力を手放した。
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