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もっとも拘束を解かれてももう
僕には腕を上げる力さえ残ってやしなかったけれど。
それから着ていたニットコートを脱いで
冷たくなった僕の身体を包むと言った。
「ここを出るぞ」
ここ――。
僕を懲らしめるためだけに
用意した大掛かりなセットだ。
「ここを出てどこへ行くの……?」
横抱きにされ逞しい肩に頭を預けたまま
僕は子供のように聞き返した。
「悪魔狩りだ」
口元だけ
ニヤリと笑って征司は答えた。
「――本物の悪魔を狩りに行く」
暗闇の中で力強い双瞳は
鏡のように僅かな光を反射し前だけを見つめていた。
僕を閉じ込めていた扉を押し開ける。
この人がその手で――。
もう逆らうのはよそうと僕は思った。
いつもの事だ。
この先も気まぐれなお戯れに付き合うしかない。
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