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「今度こそ本物の警察だ。ヤだろ?」
緩慢に髪を掻き上げて
僕は返事の代わりにあくびした。
致し方ないさ。
時刻は午前3時前だ。
「こんな時間、みんな寝てるでしょう」
それこそ警察だろうが役人だろうがみんな――。
窓を開けているわけでもないのに
真夜中特有の張りつめた静けさが車の中まで深々と満ちてくる。
「だから悪魔狩りにうってつけなんだ」
征司はまたしてもバックミラー越しに
今度は確信的に呟いた。
「悪魔狩りにうってつけ……」
サリンジャーの短編に
そんなタイトルがあったなと僕はぼんやり思い出す。
あるいはそれはまったく僕の思い違いかもしれなかった。
「それで?これからどこへ向かうんです?」
こんな時間に。
いや、こんな時間だからこそか――。
「服を着たら教えてやる」
征司はこんな時だけ誠実な父親みたいにピシリと言ってのける。
「やれやれ」
ようやく新しい服に手を伸ばして
僕はまた温いあくびをした。
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