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都会で見られる星の数は僅かだ。
しかし完全な闇はどこにもない。
濁った濃紺の絵の具を流したみたいに
ただ凡庸な夜空がどこまでも淡く広がっている。
「ここは……?」
そんな真夜中。
どこかのすさんだ駐車場に征司は車を止めた。
目の前にそびえたつ古いレンガ色の建物は
人気のない廃墟のように見えるが。
時間が時間なだけかもしれない――。
(病院だ……)
頭上で鈍く光る十字がそれを示している。
「行くぞ」
何の説明もないまま征司は先に立って歩き出した。
夜間救急専用の扉から踏み込み
暗い廊下をひたひたと足音も立てず進んでゆく。
設備は古く人気もない。
鼻をつく消毒の臭い。
夜の病院はそれだけで不気味だ。
無言のまま階段を登ると――。
征司はとある病室の前で足を止めた。
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