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それでやつも観念して再び重い口を開いた。
「最後――俺を襲った男が去って行く時に」
「男の顔を見た?」
「いいえ」
薄井はちらと僕を見ながら首を横に振った。
「襲った男は覆面姿だったので」
「何が言いたいんだよ!」
的を得ない。
はっきりしない。
痺れを切らしたのは僕の方だった。
「結局何がどうしたんだって?」
苛立ち紛れ
ベッドサイドの椅子を蹴飛ばしてやると。
薄井が気の強い猫目を細める。
覚悟しろとでも言いたげに――。
征司は僕の蹴飛ばした椅子を
足先で器用に起こすと
「話はまだ続くのか?」
長いニットを引きずるように腰を下ろした。
「少し飽きてきた」
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