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「心当たりはないのか?」
征司は僕に聞いた。
心当たり――。
パリへ行こうと言った。
あの日。
『大丈夫。あの秘書の事なら任せて――』
部屋を出た僕をつけたのだろうか。
それとも
もっと前から気付いていたのかもしれない。
「あるみたいだな」
征司は上目遣いに僕の表情を窺って
小さく肩をすくめた。
それから氷のような冷たい目で薄井に向き直ると
「証言できるか?」
「証言?」
「裁判でそのことを」
言った。
「お兄様っ……!」
「何だ?」
天を仰ぎ空っぽの口を開ける。
飢えた毒蛇みたいに。
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