其の三 返却

5/6
前へ
/43ページ
次へ
浩志はこのまま敬語を使うか悩んだが、ろくろっ首の言葉に甘えて、タメ口を使う。 「そ、そうだね。あ、名前聞いてもいい?」 ちょっとナンパっぽいかな、と思ったが、やましい気持ちはないのでいいだろう。 「あ、お六です。以後お見知り置きを~」 「お六さん、か。…じゃあ、ろくちゃん、って呼んでもいい?」 浩志は友達を作るのはあまり得意ではないが、名前を覚えやすくする目的もあり、最初は友人のことを〇〇ちゃんと呼ぶことにしている。 「ろくちゃん…」 お六は少し俯いた。 (あ、嫌だったかな…) 「いいですね!すごくいいです!私あだ名とか初めてで、なんか感動してます!」 嫌ではなかったようなので、ほっとした。むしろこちらが引くほど喜んでくれた。 「あ、学生さんのお名前は?」 「俺は峰 浩志。」 「浩志さん…じゃあ、浩志くん、でどうですか?」 まさか下の名前で呼ばれるとは思っていなかった。久しく女子に名前で呼ばれてないので、免疫がない。でも最高だ。 「いいよ!よろしく、ろくちゃん!」 「浩志くん、…よろしくね!」 なんだか面と向かってよろしくというのは、照れる。浩志はふと、空が暗くなっていたのに気づいた。少し肌寒くもなっている。そろそろ帰らないと、お六が風邪をひいてしまっては大変だ。浩志は綾可視鏡をお六に返す。 「じゃあ、そろそろ帰るわ。綾可視鏡、ありがとね。」 「え、なんで綾可視鏡の名前を?」 「昨日たまたま俺を助けてくれた人が、先祖にこれを作ってた人がいてね。それでこれを見て、俺に教えてくれたんだ。」 「へぇ~、私たちのことを知ってる人、意外にいるんですね!」 「そう。だから、ろくちゃんも自信持って。」 「…はい。あ、でもこれを持ってないと、浩志くん私のこと見えないや。」 「そっか。でも、大事なものなんでしょ?俺が持ってる訳にはいかないなぁ。」 「うーん。あ、でも、声は聞こえるらしいので…また呼んでもいい、かな?」 「…もちろん!俺はいつもこの道通るから、暇なときにでも声かけて!あな伝の話しよう!」 「…はい!きっとですよ!」 「おう!じゃあ、またな!」 「気をつけてくださいね!」
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加