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かつて河童が出没したという言い伝えがある柳瀬市に、峰 浩志は住んでいる。
柳瀬市には大きな川が流れており、春になると土手に植えられたたくさんの桜が景色を桃色に染める。しかしそれ以外はこれといった特色もなく、ありきたりな東京のベットタウンといったところである。
当然この街には名物や名所もないため、市のイメージキャラクターは言い伝えにちなんで河童がモチーフになっている。
もちろんこの街の人々は誰一人として河童がいるとは信じてはいない。せいぜい自分の住む街を紹介するときのネタにするくらいだ。妖などは子ども騙しだと揶揄する者もいるだろう。
しかし、火のないところに煙は立たぬ、というように、河童伝説が残るのにはそれなりの理由があるかもしれない。
ひょっとすると、我々には彼らのことが「見えていない」だけで、本当はすぐそばで「生きている」のではないだろうか。
妖と人間の世界は、ほんのちょっとしたきっかけで 、
ー例えば、レンズひとつ挟むだけでー
交わりあえるのかもしれない。
これは、そんなきっかけから始まる、妖と人間の心の物語である。
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